氷帝学園中等部3階。
自習室。
強すぎるクーラーに吹かれて、多くの生徒達が受験勉強をしていた。
テニス部元部長 跡部景吾もその一人。
ふと顔を上げたかとおもうと
ライバル達の様子を見回し、ため息をついた。
窓の外の青い空を見つめる。
ついこの間まで、全国を目指して戦っていた。
なんだか遠い記憶に感じる。
負けたから、 ここにいる。
あの頃も辛かったけれど、やっぱり戻りたいと思う。
試合の合間に見上げた青い空は、雲がゆっくり速く流れていて、そして
でも、
今 大きな窓から見える雲は、動いていない。
空は変わっていないはずなのに、動いて見えない。
自分にはもうあの空は当分見れないのだ。
跡部は受験勉強を放棄して、動かない空を見つめ続けた。
氷帝学園中等部3階自習室
の 前廊下。
「あー・・・・。 ・・・・やる気せぇへん」
「おまえいい加減勉強しろよな。」
テニス部元D2の二人。
「せやかてなぁ・・・・・・あーテニスしたいなぁー」
「・・・・・・」
「なぁがっくん。二人でかけおちせぇへん?」
「・・・はぁ!?」
「逃避行や。とーひこー。」
「・・・・・・」
「受験も世間も捨てて、逃げようや」
「・・・・・・」
「そんで誰もいないところで二人、テニスをして毎日過ごすんや・・・・・」
自習室前まで忍足を連れてくると、岳人はエレベーターのほうに向き直った。
「ん。じゃぁ、ちゃんと勉強しろよ。」
「え?がっくん帰るん!?」
「俺はこれから塾なんだよ。」
「・・・・・・」
「じゃあな。やれよ。おまえこないだの校外模試やばかったろ。」
「・・・・・・」
岳人はエレベーターが到着するのを待っていた。
忍足も遠くから、なんとなくエレベーターの階数表示を見つめた。
「じゃぁな。」
「・・・・・・・おぅ。」
忍足は何かをあきらめたように、自習室のほうに向き直る。
「4月になったらさ、またテニスしような。」
驚いて振り向くと、エレベーターはすでに下がっていくところだった。
「・・・・・・」
(なんやアイツ。今の自分かっこいいことした!とか思っとんのやろか。)
「4月って、いつやねん・・・」
忍足は自習室の扉を開けた。
空いている席を面倒くさそうに探していると、見知った後姿が目についた。
(・・・・・・・・跡部?)
机に向かっていながら、顔は横を向いている。
(・・・・?)
空を眺めているように見えた。
(・・・・・・・・??)
忍足は跡部の横に立った。
急に青空をふさがれた跡部は、不快そうにその犯人を見上げた。
「・・・・・・・・なんだお前か」
そうして不快そうに顔を歪めて、笑った。
(・・・・なんでコイツうれしそうなん?)
「なにしとるん跡部。」
「あぁ?見てわかんねーのか?」
「勉強しとるようには見えへんかったけど。」
「・・・・・・・」
「なんなん?跡部も勉強する気せぇへんの?」
「お前と一緒にするな。」
あながち外れてはいなかった。
誰だって、やる気なんてしない。
この10代という若い内に、もっとやるべきことがあるんじゃないだろうか。
今しかできないことが、もっと他にあるんじゃないだろうか。
心の奥から何度も訴えてくる叫び。
それが的を得ていることも知っている。
でも自分の中の世間が、あたまりまえのようにそれを無視し続けて。
曇った跡部の顔を見て、忍足はニヘらと笑った。
「ほならけーちゃん。かけおちしよかー。」
「・・・・・アーン?」
けなす言葉を探しながら忍足を睨み付ける。
しかしその胡散臭い笑みの中に悲しみを見つけて、何も言えなくなる。
コイツも自分と同じことを感じているのだと。
「・・・・・・」
「やぁーん景吾はん。家も世間も樺地も捨てて私と逃げてぇーん。」
「妙な声出すな。(・・・樺地?)」
跡部の後ろで勉強していた生徒が不審そうに顔を上げたが、すぐに興味なさそうに参考書に目を戻した。
涙が出そうなほどの懐かしさと、タイミングの良さに負けた。
「・・・・行くか。」
「え?」
「逃避行。 オラ行くぞ。」
「え?跡部?マジで?」
「お前が誘ったんだろ。」
さぁ。
2人で逃避行しようか。
一階の自販機まで。
モドル
中学のときなんて勉強した覚えがありません。
高3の時はこんな感じでした。
受験生に愛をこめて (040723)